ツチアケビ(学名:Cyrtosia septentrionalis[1][2])は、森林内に生育するラン科植物である。ラン科植物として、また腐生植物(菌従属栄養植物)としては非常に草たけが高く、大きな真っ赤な果実がつくので、大変人目を引く植物である。日本固有種。別名ヤマシャクジョウ(山錫杖)。
地上部には葉などは無く、地面から鮮やかな黄色の花茎が伸び、高さ1mに達する。秋になると花茎の上部に果実がつき、熟すると長さが10cmにもなり、茎を含めて全体が真っ赤になる。まとまって発生することがよくある。
和名は地面から生えるアケビの意であると考えられるが、果実は熟しても裂開せず、形状以外はさほど似ていない。果実にはかなりの糖分が含まれ、動物が摂食して種子散布している可能性もある。人間にもかすかな甘味は感じられるが、タンニンが多量に含まれ、化学薬品のような強烈な異臭と苦味もあり、食用にはならない。民間では「土通草(どつうそう)」とよばれて強壮・強精薬とされ、あるいは薬用酒の材料にもされるが、薬用効果についての正式な報告はほとんどない。採集すると、時間の経過とともに真っ黒になる。種子はラン科としては比較的大きく、肉眼で楽に形状がわかる。
光合成を行う葉を持たず、養分のすべてを共生菌に依存している。ナラタケとラン菌根を形成し、栄養的には寄生している。地下には太い地下茎があって、長く横に這う。地下茎には鱗片状の葉(鱗片葉)がついている。
初夏に花茎を地上に伸ばす。花茎は高さが50 - 100cmに達し、全体が黄色で、鱗片葉はほとんどみられない。あちこちに枝を出して複総状花序となり、枝の先端に花を咲かせる。花は3cm近くになりかなり大型で、全体にクリーム色で肉厚である。
果実は秋に成熟する。果実は楕円形、多肉質で、熟するにつれて重く垂れ下がり、多数のウインナーソーセージをぶら下げたような姿になる。果実は肉質の液果である。その点でバニラなどと共通しており、これらはやや近縁とも言われる。
腐生ラン類は非常に生育環境が限定されるものが多いが、ツチアケビは森林内であれば比較的どこにでも出現し、スギやヒノキの人工林等でも見かけることがある。
ツチアケビ属 Cyrtosia は熱帯から温帯アジア、ニューギニア島に5種があり、いずれも腐生植物。日本には、同属では本種1種が分布する。
属のシノニムとして Galeola があり、日本ではツチアケビのほかにタカツルラン(別名、ツルツチアケビ)(タカツルラン属)Erythrorchis altissima (Blume) Blume、シノニム:Galeola altissima (Blume) Reichb.fil. が屋久島以南に知られる。本種はつる性で高さは5mにも達する日本最大のランであり、絶滅危惧IA類(CR)(環境省レッドリスト)である。